ひと夏の恋に、少年の心は切なくも、美しく輝く。

※作品の内容に触れる箇所があります

アカデミー賞受賞作品。

その良さは、もうすでに語られるだけ語られたことでしょう。

男性同士の恋愛映画が数ある中、この映画がひときわ心に残った理由は、やはり恋と愛のはざまにこそ生まれる、あまりに切ない純粋さによるのだと思います。

主人公エリオの感情が、不自由な未熟さで腫れあがるように描かれれば、相手役オリヴァーの身勝手なほどの繊細さと、糸をつむぐように柔らかく、きつく、結ばれていく。

三十年前の夏のイタリア。

避暑地での出来事です。

エリオの純粋さと恋する苦しさは、十七歳という年齢設定故に表せられる、奔放で刹那的なものですが、当時二十代だったティモシー・シャラメだったからこそ、物語の芯として、あれほど見事に演じられたのだと思います。

それくらい、彼の魅力が映画の展開をけん引しているように感じました。

明確には表現されずに撮られた、二人の心境の変化や恋の進展具合が、不意に観ている人の心をドキッとさせます。

強がりや臆病さによる誤解で縮まらない距離に、痛みを覚えるほど共感しますけれど、その痛みを理解し合い、癒し合える時間が訪れるまでの魅せ方は、あまりに美しく、幻想的でさえあります。

一緒にいたいという気持ちを、時間と空間をあますことなく使って、彼らは観ている人に知らせようとしてくれますが、もうその時には、この映画の筋書きに胸を高鳴らせているはずです。

二人で自転車をこぎ、エリオは普段一人で過ごすための場所に彼を連れて行きます。

そこでお互いの想いが、一つの形になります。

正直すぎる気持ちは、その形からつい零れ落ち、互いを傷つけ合いそうになりながら、また求め合って形を成していく。

たった一枚の紙切れで、なんの変哲もない夜の時間が、一生ほどの夢に縁どられ、抗えない想いで魅惑的に突き動かされていきます。

文学性が高い映画なのに、演出に愛や明るさ、独自性がちゃんとあるからか、性別による愛の在り方にひたるだけじゃなく、単純な物語構成を楽しめる造りにもなっているように思います。

彼らのような恋に憧れることも出来ますし、自分なりに人を好きになりたいと思うことも出来る、良質な恋愛映画であると言えます。

ラストは、物語が終わるというより、これからも続いて行くのだと、強烈に印象付ける、忘れられないシーンとなっています。

今では世界的な人気を得たティモシー・シャラメが、役者として成功の道を歩むことが、絶対的に約束されたような、目を逸らすことのできない場面になっているとも思います。

タイトルとしても役目を果たしている、愛のささやきが、夏を終えた並木道に降りる秋風のように、今でも切なく耳に響いて来るようです。

綺麗でさわやかで、容易でない厚みを持った物語。

イタリアの夏が結んだ恋の結末は、多くの人の胸に染み入ることでしょう。

忘れられない恋をした人への一通の手紙のように、郷愁を帯びた余韻が、いつまでも残る名作です。

ぜひ一度ご鑑賞ください。

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