※作品の内容に細かく触れる箇所があります
鬼太郎は子供の頃からよく観ていました。
僕が観ていたのは第三期、戸田恵子さんが声を務めてらっしゃった時期の作品です。
一期変わるたびに鬼太郎の性格も変わりますが、色々と観てみた結果、やっぱり第三期の、正義感と優しさに溢れた鬼太郎が、僕は一番好きだなと思います。
この作品は、まず構成が素晴らしいです。
冒頭、ヒロイン天童ユメコちゃんが、家族旅行をしたときの絵葉書を鬼太郎に送るシーンがありますが、そこで鬼太郎と人間との心地良い距離感を印象付けると同時に、重要な伏線をしきます。
理解や包容力のある鬼太郎親子の魅力を、再認識できるシーンから物語が始まるところもいいですね。
今回の敵は中国妖怪。
これだけで十分強そうに感じますが、敵はさらに強い妖力を使って、人間や日本妖怪たちを次々に反物に変えてしまいます。その都度紫の飴玉を食べさせるんですけど、そうすると、苦しみぬきながら、やがて反物になってしまうんです。
さらに、その反物を着た人間を意のままに操り、支配を広げていきます。
ユメコちゃん一家も狙われます。ユメコの母は、安く反物が手に入ったと、盆踊りのために仕立てた浴衣を娘に着せますが、盆踊りを楽しみにていた他の町民たちと同様、敵の支配下に落ちます。
策略によって起きた妖怪と人間との争いに、鬼太郎は一貫した共存姿勢を貫きます。まさにヒーローの鑑です。
敵のトップのチーという男は、とても強い力や個性を秘めています。
あるある口調でにこやかで、まさに日本人が生み出した中国人像そのもので登場し、なおかつ自らが現場に赴いてまでして、確実に反物を日本人に売りつけていくさまは、敵ながら感心する反面、日本への憎しみの深さを窺わせもします。
不意に出る本性など、劇画タッチで描かれていますので、子供が泣くほどの恐ろしい形相を呈します。敵役としては申し分ない存在感です。
それに加え声優さんの迫力ある声も、聴き心地がいいくらいピッタリです。
振り返ると、本当どのキャラクターもよく見つけて来たなと思うほど、完璧な声を披露しています。味方側は言わずもがな、敵側の妖怪たちも見事な人選だと思います。
音楽も好きです。
要所要所で効果的な音を楽しむことができます。
例えば、敵側の主戦力が登場するシーンは非常にわくわくしますし、鬼太郎がチーと対面し、不可思議な空気が漂うシーンの音楽なども、とても印象的に残っています。
そんな中、反物にされた仲間を助けるために動きだした、子なきじじいたちの前に、井戸仙人というサブキャラクターが出てくるんですけど、その声がまた、特徴だけで出来ているような絶妙な声なんです。
中盤辺りで、井戸から出てきてなんかアドバイスくれるんですけど、あの声であのように喋ってって演出した方は、どういう感性の持ち主だったのか。
僕はそこに興味を引かれてしまいました。
セリフは覚えている限りでいうと、「ほにゃららかければ、たちまちもとの姿に戻るであろう」です。声に特徴がありすぎて、ちょっと聞き取りづらいんですよね。
中国妖怪たちとの合戦のシーンは見ものです。
一回目の戦いでは相性の悪い相手に劣勢だった鬼太郎陣も、二回目はそれぞれの能力を生かして、優勢に持ち込みます。
砂かけばばあや子なきじじいレギュラー陣も、安定の盛り上がりを見せてくれますし、巨大な野づちとか、強そうで弱い魅力的なサブキャラたちの活躍も見られて、満足なシーンとなっています。
復活した鬼太郎が鬼火たちを召喚して、強大無比な相手の弱点をつくシーンも大好きです。目玉の親父のサポート力が光ります。
一反木綿とタッグでの空中戦。鬼太郎の声が勇敢さそのもののように放たれ、あわや吹き消されそうになる火の妖怪たちのエネルギーを高め上げます。
適材適所で選抜された、まさに主人公特権で集結した才能ある妖力たち、っていう感じで、一層盛り上げてくれます。
主人公たちの魅力十分なワンシーンです。
物語も佳境に差し掛かり、敵の総大将チーは、奥の手を繰り出します。
ここら辺りで、ねずみ男がいい仕事をします。盗んだ飴玉で、逆にみんなの窮地を救うんですけど、前後のシーンが好きで、子供のとき真似っこやりました。
風呂敷から飴玉の入った壺を「まだまだあるぜ」と言いながら取りだす、ねずみ男のセリフと仕草が、六、七歳当時の僕のまねっこ欲求をぐんぐん高めてくれました。
がさごそ取りだすとか、がさごそしまうとか、何故かあの「がさごそ感」が、たまらなく好きだったんですね。
押し入れの中に入って、風呂敷のかわりに布団の中からがさごそと、飴玉代わりになるものを取りだし、部屋中にばらまいていました。
そして伏線を回収し、助けられた人々と一緒に、最後は、鬼太郎の共存の願いが、夏の風物詩を通してしっかり描かれ、物語は大団円を迎えます。
一応子供向けではありますが、大人たちの気持ちを楽しませることも、ちゃんと忘れていない映画だと思います。
もしいらっしゃるのであれば、お子さんたちともぜひご鑑賞ください。