不朽の名作、ピーターラビット原作者の半生を描いた、愛の物語

※内容に触れる箇所があります

深い愛と、心あたためるシーンに溢れた美しい映画です。

青いジャケットをはおったウサギと言えば、多くの人が思い浮かべる絶対的なキャラクター。

その愛らしいキャラクターを生み出した、ビアトリクス・ポターの半生をユーモアたっぷりに描いています。

この実在した物語が起きていたのは、1900年代初頭のこと。男尊女卑がまだまだ根深い時代でした。

32歳独身の女性が、時代に反して芸術家として自立するなど、簡単には受け入れられない世間の目の中で、ビアトリクスはそれでも自分を押し殺すことなく、可愛らしい友人(動物)たちを描き続けました。

彼女の空想力はとても強く、描いた友人が紙の上で動いて見えてしまうため、ことあるごとに「動かないで」「いたずらしないのっ」と話しかけるのは当然のこと、誰に対しても唯一の友人たちとして紹介します。

この映画の見どころについて、まず言えることは、ミス・ポター役のレニー・ゼルウィガーでなければ出せない味を堪能できるということ。

ブリジット・ジョーンズの日記がお好きな方には、説明は不要かと思いますが。

例えば、冒頭の出版社でのシーン。

自ら書いた絵と物語を持って、売り込みにきたビアトリクスですが、何枚もの絵を拝見する兄弟経営者・ウォーン両氏の明らかな反応の悪さに、「いえ、もう何もおっしゃらなくて結構です」と、せっかちに席を立とうとします。

自分に正直すぎる人の反応は観ていて好感が持てるし、とても面白いです。

さらに、ウォーン氏側の打算ではあるにせよ、出版決定の返事がされた瞬間、耳を疑うビアトリクスの喜びは、一挙手一投足あっちこっちにこぼれだします。

あまりに嬉しすぎて、持ち込んだスケッチブックを忘れて、部屋を出ようとしてしまうシーンが大好きです。

「ミス・ポター、これはあなたのでは?」とウォーン氏は呆れ気味に呼び止めます。

ハッとしたビアトリクスは、ピーターラビットが描かれたスケッチブックのほうに歩み戻り、「もちろんです」と品のよい満面の笑みで応えます。このレニーの「もちろんです」という答えと、その表情がなんとも言えずたまりません。

ウォーン氏から差し出されたスケッチブックに向かって、「帰るのよ、ピーター」と、小粋なジョークまで飛ばし、上向きにした手のひらをちょいちょいと動かしてからスケッチブックを受け取る一連の芝居なども、彼女のキャラクターがあるからこそ、あんなにも心くすぐる表現となるのでしょう。

ブリジットジョーンズの日記とはひと味違う彼女が、存分に楽しめると思います。

さて、いよいよ出版となる際、ウォーン両氏の弟、末っ子ノーマンが編集を担当することになりました。

何も聞かされていなかったビアトリクスは、終始不安気にしますが、初仕事ながら熱心なノーマンの戦略を聞くと、自然と信頼を深めていきます。

この二人の恋の進展具合も大変見どころですし、ノーマンのお姉さん、ミリーとの出会いもまた、幸福な副産物として彼女の人生を彩ります。

階級至上主義で、ノーマンら商売人を見下しているビアトリクス両親の言動は目に余りますけれど、自己を貫き、彼女はノーマンとの純粋な愛を育んでいきます。

プロポーズのシーンなど、二人のやりとりの可愛らしいことといったら。

ノーマンからの突然のプロポーズに困惑して、その場を離れてしまったビアトリクスですが、ミリーにことの次第を打ち明けると、「何を迷っているの。明日にでも結婚しなさい」と叱咤され、すぐにノーマンにイエスと告げます。泣きそうな笑顔で喜ぶノーマン。

それこそ絵本の中のお話のように柔らかくて優しくて、観ていると心がほっこり温まるシーンになっています。

ビアトリクスの両親が馬車で出かけるときのシーンも、とても素敵です。

夜、窓から見下ろすビアトリクスの視線の先に、兎たちが馬車を引き、鼠が御者になっている構図でアニメーションが組み込まれるのです。

ビアトリクスの目に見える景色を描いた、ファンタジックな場面は夢があります。こうしたアニメーションが随所に登場するのも、この映画を楽しめるポイントです。

多額のお金が入る展開も、また現実的な夢があります。

絵本は瞬く間に人気となり、類を見ない売れっ子作家になっていくビアトリクス。

そんな折、幼い頃に住んでいた土地が売りに出されることを知ります。

大切な自然と思い出をなんとか守りたくて、自分の収入でその土地を買えないかと、もごもご自信なさそうに相談するシーンも好きです。

税理士の男性は、少しだけ驚いた顔で、「土地どころか、屋敷をいくつも変えますよ。ロンドンにも家を持てます」何を言っているんですか、という具合で、ビアトリクスを喜ばせてくれます。

自分が億万長者だと自覚していなかったところとか、たまりませんね。

ビアトリクス・ポターの生き方には、映画で描ききれない苦悩も沢山あったのだと思います。それでも、自分を貫き、成果を残し、愛されるチャンスを逃さなかった彼女の生き方は、憧れざるを得ないほど素晴らしいものに映りました。

全編を通して、温かな愛が満ちている本作。

幸も不幸も隣り合わせに存在している中で、何が一番僕たちの人生を豊かに送らせてくれるものになるのか。

その答えを、ビアトリクス本人の生き様と、彼女が触れた深い愛、そして彼女の大切な友人たちが、その奔放なキャラクター性で愉快に教えてくれる、無類の良作となっています。絵本作家、ビアトリクス・ポターの生み出した世界の特別な温もりに包まれながら、その答えを心の中に受け取ってほしいと思います。

春が待ち遠しいこの季節にピッタリの映画です。ぜひご鑑賞ください。

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