official髭男dismの曲を初めて耳にしたのは、すでにその良さを理解していた世間から遅れること、一年近くも経ってからでした。
最近の曲にも疎い僕が、新規開拓など何も出来ていなかったときのことです。
記憶があいまいですが、イエスタデイか何かを耳にして、その声と曲に、瞬間的に心惹かれていたような気がします。
それからМステでピアノを弾きながら歌っている姿を観て、疑いようもなく大好きになりました。
この人は、なんてかっこよく、なんて色っぽく歌うのだろうと。
カッコいい歌手はいくらでもいます。けれど、本分である歌唱時の姿がカッコいいと思えたのは、多分藤原さんが初めてではないかと思います。
ワンフレーズを歌い切る際の、声の引き方とか。歌うこと以外なにも考えられないような表情とか。
専門知識がなくて、彼らのよさをうまく表現できないのが悔しいですが、懐かしい時代の夜の匂いが、髭ダンディズムの音楽には漂っているように感じます。
それは知的で、性的で、夢と同じ性質を持っていて、来るものを誰も拒まないような、強力な人間性が沸き立っているような、芳醇な夜の匂いです。
一曲ごとに作られる形の異なるドラマも魅力です。
満天の星が視界で一気に広がりを見せるように、ボーカルの瑞々しい歌声によって、どこまでもふくらみ、聴く人を時間も忘れさせるほど夢中にさせてくれます。
本当に音楽が好きで、音楽で人を楽しませるのが好きな人なのだろうな。そんな風に思いながらいつも聴き惚れています。
彼の声には品があります。優しさや、真っ直ぐさがあり、激しさや生真面目さ、人間らしい、弱くて強い感情もたくさんあります。だから、聴いていて気持ちがいいんだと思います。
そんな声も曲ももちろんのこと、歌詞が大好きです。
これほど抜群な語彙にあふれ、センスがちりばめられた詞の世界は、久しぶりに味わいました。
僕はユーミンも好きで、ときに歌を聞かず歌詞カードだけを読んだりしますが、それは読んでいて楽しいからです。
すごいなぁと思ったりもします。好い小説や詩を読み終えたときみたいに、誰かに話したくもなります。
彼が書くものも同じです。
その歌詞があの声に乗って聞こえると、思わずためいきが漏れます。
僕はまだまだ、そこまで熱心なファンとは言えませんが、いくつか好きな曲について話したいと思います。
「バッドフォーミー」
これは耳に残って、たびたび脳内再生を繰り返します。
♪群青色の涙 引っ付いて離れなくなった
メロディーと彼の美しい歌声に、これほど合う選択もないくらい、よくこの言葉を選んで、よくあのように歌ってくれたなぁと、しみじみと感動しながら、一種の快感に浸らせてもくれます。
「LADY」
心の琴線に触れる名曲です。
そんな人に会ったこともないのに、そんな恋すらしたこともないのに、聴いていると不思議な切なさが溢れ出して、胸や瞼を熱くし、悲しくもないのに無意識の領域を感傷的に揺さぶられてしまいます。
正直で不器用な愛しさがこれでもかと詰まっているから、何度聴いてもまた同じ気持ちで、この曲と恋に落ちるのです。
「Driver」
疾走感のある曲です。
日常に落とし込んでドラマを描きながら、ユニークな視点と爽快さで、最後まで盛り上げてくれます。晴れた日に歩きながら聴いていると、自然と気持ちがノッてきます。
空を飛びたくなるとか、思いっきり走り出したくなるとか、歌詞そのものの力がふんだんに感じられる、そんな一曲だと思います。
「Ⅰ LOVE…」
まず出だしが最高です。
素人が知ったようなことを言って許されるのなら、作った人の真剣な横顔が自然と浮かんでくるような、それだけでもう満足してしまいそうな絶妙な掴み方をされます。
陰と陽が巧妙に混じった詞の展開から、使い古されたはずの言葉の新鮮な扱い方、サビへの期待を軽く突き抜けるほどの歌唱、イレギュラーという単語で弾み、更に心をつかむ言葉を容赦なく届けてくれます。
タイトル通りのテンションでは、聴いていられない曲です。
この表現が適切か分かりませんが、どこか戦に赴くような好戦的な激しさが掻き立てられます。
もちろん誰かを傷つけるとかではなく、決死の覚悟といった、強いエネルギーを感じるのです。
この曲を聴いて、色んな楽器に触れたくなる人は多い気がします。音楽活動などと縁のない僕でさえ、ちょっと叩いてみたいと思ったくらいなので。
あの曲を形作っている楽器の音色が、よほど楽しそうに聴こえてくるからだと思います。
それは聴いているほうも楽しめる、最大の魅力だと言えるのではないでしょうか。
今回はこの四曲について、好き勝手言わせてもらいました。
やっぱりいいですね。今も聴いています。
愛やパワーがある人の作る歌というのは、底深い何か、すたれない何か、得体の知れない何かを、いつのまにか聴く人の心に植え付けていて、それが何か分からないうちに、気づけば心をとらえて離さなくなっています。
official髭男dismのアーティスト性は、まさにそんな曲の集合体のようで、数多ある音楽の流動の中、ひときわ特異で大きな存在感を放ち続けているように思います。
まだまだ彼らの魅力について、表現し切れていませんが、これからも色んな場面で聴いていき、新たな発見をしていきたいと思います。